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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)125号 判決 1995年6月29日

神奈川県横浜市南区六ッ川3丁目40番地の4

原告

破産者 東洋ライニング株式会社

同破産管財人 田子璋

東京都港区西新橋2丁目4番1号

原告

日本設備工業株式会社

同代表者代表取締役

羽賀正行

原告ら訴訟代理人弁護士

石川幸吉

弁理士

佐々木功

同復代理人弁理士

小川秀宣

愛知県名古屋市南区三吉町4丁目73番地

被告

日本施設保全株式会社

同代表者代表取締役

伊藤晏弘

同訴訟代理人弁理士

伊藤研一

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告ら

「特許庁が、同庁昭和61年審判第7495号事件について、平成4年4月14日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

2  被告

主文と同旨の判決。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は名称を「既設長尺管の内面塗装方法」とする発明(以下「本件発明」という。)に係る登録第1183320号特許(以下「本件特許」という。)の権利者であるところ、原告東洋ライニング株式会社は、昭和61年4月14日、特許庁に対し、被告を被請求人として、本件特許につき、無効審判を請求した。原告日本設備工業株式会社は上記審判に参加人として参加した。

特許庁は、右請求を昭和61年審判第7495号事件として審理の上、平成4年4月14日、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決をし、その謄本は、同年6月3日、原告らに送達された。

2  特許請求の範囲第1項の記載

移動不可能に埋設あるいは固定された既設長尺管の内面を塗装する方法であって、既設長尺管の内部にガスを供給して既設長尺管内を旋回しつつ進行するガス流を生ぜしめ、既設長尺管内に供給された液状塗料を、この旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹付け、既設長尺管内面をほぼ均一な塗膜厚さにて塗装することを特徴とする既設長尺管の内面塗装方法(別紙図面1参照)。

3  審決の理由の要点

(1)  本件発明の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  請求人の主張

<1> 本件発明は本件特許出願前に日本国内において頒布された特開昭52-4544号公報(以下「引用例1」という。)(甲第4号証)に記載された発明と同一であるから、特許法29条1項の規定に違反して特許されたものである。

<2> 本件発明は、引用例1及び本件特許出願前に米国内において頒布された米国特許第1146791号明細書(以下「引用例2」という。)(甲第5号証)に記載された発明、あるいは引用例1、2及び本件特許出願前に米国内において頒布された米国特許第3139704号明細書(以下「引用例3」という。)(甲第6号証の1)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、本件発明は特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。

<3> 塗装されるパイプの上流側端部及び下流側端部はどのようにしてあるか説明がなく、明細書の記載が不備であるから、本件特許は、特許法36条4項の規定する要件を満たしておらず、また、本件発明は、同法1項本文でいう発明ではない。

<4> 本件発明は、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものでないので、特許法29条1項柱書きにいう発明ではない。

したがって、本件特許は、特許法123条1項の規定により無効とすべきものである。

(3)  請求人の主張に対する判断

<1> 引用例1には、粉体塗料の溶融温度以上に予熱した金属製管継手の内面に粉体塗料を搬送用空気と共に旋回又は拡散させながら吹き込んで被覆する方法(別紙図面2参照)が記載されている。しかし、本件発明は、特許請求の範囲に記載されるように、粉体塗料を融点以上の温度に予熱した管内の塗装方法を含むものでないことは明確であるので、本件発明が引用例1記載の発明と同一であるということはできない。

<2> 引用例1には、粉体塗料の溶融温度以上に予熱した金属製管継手の内面に粉体塗料を搬送用空気と共に旋回又は拡散させながら吹き込んで被覆する方法が、引用例2には、液状塗料を噴霧状にして長尺な管内に吹き付けて塗装すること(別紙図面3参照)が、また、引用例3には、ガス流を用い、その旋回ガス流に砂などの研磨剤を乗せて水道管又は各種パイプラインの長尺管内面に吹き付けて清掃すること及び清掃後に液状塗料で塗装すること(別紙図面4参照)がそれぞれ記載されている。

しかし、各引用例には、液体塗料を旋回ガス流によって押し延ばしながら塗装することについての記載はない。そして、清掃は管内の物質を除去するものであるのに対して、塗装は管内に物質を付着させているものであり、また、引用例3に記載される清掃は粉体で管内面処理するのに対し、本件発明の塗装は液体で管内面を処理するものであるので、引用例3に記載されている清掃の技術を、引用例2に記載されている塗装の技術に適用することが当業者にとって容易に行ない得るものとは認められない。

一方、本件発明は前記の構成により管内面を均一に塗装するというすぐれた効果を得ることができたものと認める。

したがって、本件発明が引用例1、2あるいは引用例1、2、3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得るものとは認められない。

<3> 本件発明は、平成1年3月23日付けの訂正により既設長尺管であることが明確になり、また、このような長尺管はその用途からいって、両端部間が連通されているものであることは自明であるので、端部についての記載がないからということのみで、明細書の記載が不備であるということにはならないし、また、特許法でいう発明でないということはできない。

<4> 請求人は、「機械工学便覧」、「実用水力学及び水力機械」を提示して、「液状塗料が旋回ガス流の応力により、吹き付けられる」という部分は、でたらめであって、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なものとはいえないものであると主張している。

しかし、管内に供給された液状塗料が旋回ガス流により外力を受けることは自明であって、「機械工学便覧」に記載される運動方程式及び「実用水力学及び水力機械」に記載される渦巻ポンプにおける羽根車が液体に与えるトルクの関係式によって上記事実を否定することはできない。したがって、本件発明が自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なものとはいえないということにはならない。

以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠によっては、本件特許を無効にすることはできない。

4  審決の理由中、(2)(請求人の主張)は認め、その余は争う。

5  取消事由

(1)  本件発明の要旨認定の誤り(取消事由1)

審決は、本件発明の要旨を、特許請求の範囲第1項記載のとおり、「移動不可能に埋設あるいは固定された既設長尺管の内面を塗装する方法であって、既設長尺管の内部にガスを供給して既設長尺管を旋回しつつ進行するガス流を生ぜしめ、既設長尺管内に供給された液状塗料を、この旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹付け、既設長尺管内面をほぼ均一な塗膜厚さにて塗装することを特徴とする既設長尺管の内面塗装方法」と認定したが、誤りである。すなわち、

本件発明は塗装方法に関する発明であるから、塗装方法を特定するに足りる構成が必須要件となる。しかして、特許法36条4項(昭和60年法律第41号により改正されたもの)に基づき、特許請求の範囲には、少なくとも、塗装方法を特定するに足りる構成が記載されるべきであるところ、本件明細書の特許請求の範囲第1項の記載では、液状塗料の供給手段と既設長尺管の内面に吹き付けられる液状塗料の形態が特定されていないにもかかわらず、審決は本件発明の要旨を特許請求の範囲第1項記載のとおりと認定した。

しかるところ、本件明細書の発明の詳細な説明の項の記載(甲第2号証5頁右欄21行ないし28行及び同第3号証3欄1行ないし7行)は、技術常識的に液状塗料の搬送が噴霧状であることを前提としたものであり、本件発明の液状塗料の供給手段としては「既設長尺管始端部に設定された旋回ガス流を噴射する套管又はガス流噴射支管に設定された塗料供給支管からタレ流して噴霧状とし」であること、既設長尺管の内面に吹き付けられる液状塗料の形態として「液状塗料に圧力を加えて管内に設けられたノズルから噴霧状で管内に供給された液状塗料を、旋回ガス流に乗せて」に限定されるべきであるから、本件発明の要旨としては、本件明細書の特許請求の範囲第1項に記載された「既設長尺管内に供給された液状塗料を、」の構成を、「既設長尺管始端部に設定された旋回ガス流を噴射する套管又はガス流噴射支管に設定された塗料供給支管からタレ流して噴霧状とし、あるいは液状塗料に圧力を加えて管内に設けられたノズルから噴霧状で管内に供給された液状塗料を、旋回ガス流に乗せて、」と特定して認定すべきである。

(2)  特許法29条1項柱書きの該当性の主張についての判断の誤り(取消事由2)

本件発明の「旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹付け」との構成は、自然法則に反し不可能なものである。

すなわち、応力とは、一般的には「外力を受けてつりあい状態にある物体中の内力」あるいは「作用力に対しての反力」を意味するものであり、「旋回ガス流における応力」が液状塗料を吹き付ける作用力とは成り得ないことは明らかである。しかるに、本件発明の特許請求の範囲において、「旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力」と記載され、液状塗料を管内面に吹き付けるのは旋回ガス流そのものの力でもその速度によって生じる外力でもないことは明らかであるから、自然法則に反している。

なお、乙第1号証は、本件発明の構成要件となっている「旋回ガス流における応力」とは無関係である。

乙第3号証35頁の記載は、「粘性流体」すなわち本件発明における「液状塗料」に発生する「せん断応力」に関するもので、「旋回ガス流における応力」に関するものではない。

乙第3号証35頁に記載された「粘性流体」に「旋回ガス流」が相当するとすれば、「せん断応力」は旋回ガス流の流れを抑止するだけで、管内に供給される液状塗料に「せん断応力」が作用力として働く余地はない。

したがって、本件発明は自然法則に反し実施不可能な事実を内容とするもので、特許法2条1項に規定する自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものということはできないから、同法29条1項に反する無効なものであり、本件発明が「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものとはいえない、ということにはならない。」(甲第1号証7頁7行ないし9行)とした審決の判断は誤りである。

(3)  進歩性についての判断の誤り(取消事由3)

<1> 審決は、引用例1には、粉体塗料の溶融温度以上に予熱した金属製管継手の内面に粉体塗料を搬送用空気とともに旋回又は拡散させながら吹き込んで被覆する方法は記載されているが、「液状塗料を旋回ガス流によって押し延ばしながら塗装することについての記載はない。」と認定した(甲第1号証5頁6行ないし8行)。

しかしながら、空気もガスの一種であるから、引用例1には、旋回ガス流に関する記載はある。そして、引用例1には、液状塗料の記載(1頁右下欄9行ないし11行)もあり、粉体と液体は温度によって相対的に変化するものであり、特に本件発明の使用塗料として最適とされるエポキシ樹脂塗料が粉体塗料として記載(1頁左下欄16行)されており、粉体塗料は旋回又は拡散されて管内壁面に吹き付けられる段階では既に溶融して液状化しているのである(1頁左下欄19行)から、引用例1記載の発明と本件発明とは塗料の供給手段が異なるだけで実質的に異なるところはない。

<2> 甲第3号証には、液状塗料を徐々に押し延ばして管内面を塗装するという記載はなく、押し延ばしながら塗装する点は本件発明の構成とは無関係であるので、押し延ばしながら塗装する点について、各引用例に記載がないとの審決の認定は、本件発明の進歩性の判断の根拠となるものではないから、かかる認定に基づいて、本件発明の進歩性を認めた審決は、違法である。

<3> 審決は、引用例3に記載されている清掃の技術を、引用例2に記載される塗装の技術に適用することは当業者にとって容易に行ない得るものとは認められないと判断する(甲第1号証5頁13行ないし16行)が、引用例3に記載されている清掃の技術は本件発明と同一の長尺管の内面を塗装するための前提としての管内清掃であり、技術分野的に異質とする余地はない。しかも、引用例3には、管路を清掃した後に液状塗料で塗装することが記載されているのであって、引用例3に記載されている清掃の技術を、引用例2に記載される塗装の技術に適用することは当業者にとって容易に行ない得るものであるから、審決の上記判断は誤りである。

<4> また、審決は、本件発明は均一に塗装するという効果があると認定している(甲第1号証5頁17行ないし19行)が、本件発明の構成には均一塗装に結びつくものはなく、本件発明はかかる作用効果を奏するものではないから、かかる認定は誤りである。

被告は、本件発明において、「旋回ガス流における応力」に液状塗料を管内面に吹き付ける作用及び均一塗装効果があると主張するが、「応力」は他の物体に対して働きかける作用力ではないから、このような効果はない。

(4)  明細書記載の不備の主張についての判断の誤り(取消事由4)

原告らの塗装されるパイプの上流側端部及び下流側端部はどのようにしてあるかの記載がないのは、明細書の記載が不備であるとの主張に対して、審決は、長尺管はその用途からいって両端部間が連通するものであることは自明である(甲第1号証6頁7行ないし9行)としているが、原告らの主張は上流側端部及び下流側端部に関するものであるから、審決は原告らの上記主張に対する判断を避けたもので、判断遺脱である。

(5)  手続違背の主張(取消事由5)

審判手続において、請求人に答弁書に相当する被請求人の弁駁書副本と審決書とが同時に送達された。特許法134条2項に規定される答弁書副本の送達は、形式的な送達だけでなく、副本の送達を受けた請求人が自発的に弁駁書を提出することができる程度の余裕をもった送達でなければ、適法なものではない。したがって、弁駁書提出の余地のない審決書と答弁書副本との同時送達は、特許法134条2項(平成5年法律第26号による改正前のもの)に違反した違法なものであるから、かかる違法な審理手続に基づく審決は違法である。

第3  請求の原因の認否及び被告の反論

1  請求の原因の認否

請求の原因1ないし3は認める、同5は争う。審決の認定判断は正当であって取り消すべき違法はない。

2  被告の反論

(1)  取消事由1について

甲第2号証の5頁右欄21行ないし28行及び同第3号証2頁3欄1行ないし7行には、既設長尺管に対する液状塗料の供給態様に関して「タレ流し」及び「噴霧状」もしくは「液状塗料に圧力を加えて」と記載されているのみで、上記甲各号証のどこにも液状塗料が吹き付けられる状態(搬送状態)が噴霧状でなければならないとする記載はない。

したがって、本件発明においては既設長尺管の内面に付着されるまでの液状塗料の搬送状態に付き、原告ら主張のように「噴霧状」に特定する必要はない。

(2)  取消事由2について

本件発明の要旨である旋回ガス流は、各方向の速度成分に基づく「力」を有していることは自然法則上明らかである(乙第1号証)。そして、本件発明は、旋回ガス流が有する各方向の「力」を表す用語として「応力」を使用したものである。

乙第3号証の35頁及び79頁の記載によれば、「応力」を「力」と解する場合もあるから、本件発明の特許請求の範囲に記載された「応力」を「内力」であると解する必要はなく、単に「力」と解しても差し支えない。なお、35頁に記載された「粘性流体」には、空気も含まれるから、旋回ガス流も含まれ、旋回ガス流が液状塗料にせん断応力等の流体力を作用させることが理解できるから、本件発明における「旋回ガス流における応力」を「旋回ガス流における力」と理解しても自然法則に反しない。

(3)  取消事由3について

<1> 引用例1(甲第4号証)記載の発明は、粉体塗料の溶融温度より50℃位高い温度(130~160℃)に予熱された金属製管継手内に固形の粉体塗料を旋回又は拡散させながら吹き込み、内面に付着した際に予熱温度で粉体塗料を溶融させて塗装する方法であるのに対し、本件発明は予熱することが不可能な既設長尺管を塗装対象として、旋回ガス流の作用により既設長尺管の内面に付着した液状塗料を押し延ばしながら塗装する方法であるから、両者は塗装原理が全く相違している。

なお、原告らが液状塗料の記載があると主張する甲第4号証1頁右下欄9行ないし11行の当該箇所には、「予熱した管を流動状態の粉体塗料の中に浸漬する。」と記載されているだけであり、同号証1頁左下欄下1行の当該箇所には、「粉体塗料を融着させる」、すなわち、吹き付けられた粉体塗料が管の予熱により溶融し付着されることが記載されているだけである。

<2> 本件発明の「押し延ばし塗装」は、本件発明の要旨である「既設長尺管内を旋回しつつ進行するガス流を生ぜしめ、既設長尺管に供給された液状塗料を、この旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹付け」から生じる自明の作用である(甲第2号証5頁左欄35行ないし41行)。すなわち、本件発明は「既設長尺管内を旋回しつつ進行するガス流を生ぜしめ、既設長尺管に供給された液状塗料を、この旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹付け」を要旨とするため、旋回ガス流が流通する既設長尺管の始端部内に「タレ流し」状あるいは「噴霧状」で液状塗料を供給すると、液状塗料は先ず旋回ガス流の作用により既設長尺管の始端側内面に強制的に付着させられて溜まった後、溜まった液状塗料は既設長尺管に対して継続的に供給される旋回ガス流の作用により既設長尺管の始端側から終端側に向かって徐々に押し延ばして内面全体に塗装される(甲第2号証5頁左欄35行ないし41行)ものである。

<3> 引用例2(甲第5号証)には、旋回ガス流を使用して管内面を塗装する方法は記載されておらず、引用例3(同第6号証)に記載されているのは、管内に付着した錆等を除去する清掃技術であるのに対し、本件発明の塗装は管内を被覆コーティングする技術であり、両者は技術的に全く異なる。そして、引用例3に記載された研磨技術と塗装技術とは技術分野を異にするところ、本件発明は、その内面塗装に先立って既設長尺管を研磨処理することを前提としていないことが明らかである(甲第2号証5頁右欄40行ないし6頁左欄2行)。

なお、甲第6号証の9欄67行ないし70行には、清掃された管路を、洗浄液の導入方法と同じ方法によりコーティング流体で被覆することが記載されているが、洗浄液の導入方法と同じ方法とは、管路の一端から他端に向かって移動するボール105による方法であるから、本件発明のような旋回ガス流の作用により押し延ばしながら内面塗装する方法とは全く異なる。

<4> また、本件発明は旋回ガス流により、均一塗装効果を達成しているものである。

(4)  取消事由4について

審決は「両端部間が連通されていることは自明であるので、端部についての記載がないからということのみで明細書の記載が不備であるということにはならない。」として、原告ら主張を退ける理由を明確にしている。

第4  証拠関係

証拠関係は記録中の証拠目録の記載を引用する(書証の成立についてはいずれも当事者間に争いがない。)。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(特許請求の範囲第1項の記載)及び3(審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。

2  本件発明の概要

甲第3号証(特公昭58-14826号公報)及び同第2号証(特許第1183220号に関する特許審判請求公告703)(以下、甲第3号証の図面及び同第2号証の訂正明細書を総称して「本件明細書」という。)によれば、本件明細書の発明の詳細な説明の項に、「この発明は、水道管あるいはパイプライン等のように移動不可能に埋設あるいは固定された既設長尺管の内面塗装方法に関する。」(甲第2号証4頁左欄20行ないし22行)、「本発明は、…、その目的とするところは、簡易な方法により既設長尺管の内周面を始端部から終端部にわたってほぼ均一な厚さの塗膜を形成して塗装することができると共に、液状塗料及び使用するガスの消費効率を向上することが可能な既設長尺管の内面塗装方法を提供することにある。」(同頁右欄37行ないし5頁左欄4行)、「このため、本発明は、移動不可能に埋設あるいは固定された既設長尺管の内面を塗装する方法であって、既設長尺管の内部にガスを供給して既設長尺管内を旋回しつつ進行するガス流を生ぜしめ、既設長尺管内に供給された液状塗料を、この旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹付け、既設長尺管内面をほぼ均一な塗膜厚さにて塗装することを特徴とするものである。」(同頁左欄5行ないし13行)との記載があることが認められる。

3  取消事由の検討

(1)  取消事由1(本件発明の要旨認定の誤り)について

原告らは、審決が特許請求の範囲第1項の記載のとおりに、本件発明の要旨を認定したのは誤りであると主張し、本件発明は塗装方法に関する発明であるから、特許法36条4項(昭和60年法律第41号により改正されたもの)に基づき、特許請求の範囲には、少なくとも、塗装方法を特定するに足りる構成が記載されるべきであるところ、本件明細書の特許請求の範囲第1項の記載では、液状塗料の供給手段と既設長尺管の内面に吹き付けられる液状塗料の形態が特定されていないと主張する。

しかしながら、本件明細書の特許請求の範囲第1項の記載から、特許を受けようとする発明は明確に把握できると認められるから、特許法36条4項の「発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことのできない事項のみ」が記載されていると認められ、構成要件として液状塗料の供給手段と既設長尺管の内面に吹き付けられる液状塗料の形態が特定される必要はなく、「液状塗料」が「旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹付け、既設長尺管内面をほぼ均一な塗膜厚さにて塗装」されるための供給手段あるいは既設長尺管の内面に吹き付けられる形態は、当業者が容易に本件発明の実施をできる程度に発明の詳細な説明の項に記載されていれば足りると解される。したがって、原告らの上記主張は理由がない。

さらに、原告らは、本件明細書の発明の詳細な説明の項の記載(甲第2号証5頁右欄21行ないし28行及び同第3号証3欄1行ないし7行)は、技術常識的に液状塗料の搬送が噴霧状であることを前提としたものであり、本件発明の液状塗料の供給手段としては「既設長尺管始端部に設定された旋回ガス流を噴射する套管又はガス流噴射支管に設定された塗料供給支管からタレ流して噴霧状とし」であること、既設長尺管の内面に吹き付けられる液状塗料の形態として「液状塗料に圧力を加えて管内に設けられたノズルから噴霧状で管内に供給された液状塗料を、旋回ガス流に乗せて」に限定されるべきであるから、本件発明の要旨としては、本件明細書の特許請求の範囲第1項に記載された「既設長尺管内に供給された液状塗料を、」の構成は、「既設長尺管始端部に設定された旋回ガス流を噴射する套管又はガス流噴射支管に設定された塗料供給支管からタレ流して噴霧状とし、あるいは液状塗料に圧力を加えて管内に設けられたノズルから噴霧状で管内に供給された液状塗料を、旋回ガス流に乗せて、」と特定して認定すべきであると主張する。

しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、「また、第1図においては、液状塗料は加圧されることなく、いわゆるタレ流しの状態で支管3から既設長尺管1内へ供給されているが、他の方法としては、液状塗料に圧力を加えて管内に設けられたノズルから液状塗料を供給し、これを支管2からの旋回ガス流に乗せて既設長尺管1の内面に吹付けて塗膜を形成させることもできる。」(甲第2号証5頁右欄21行ないし28行)と記載され、液状塗料の供給態様に関しては、「タレ流し」、「液状塗料に圧力を加えて」と記載されていると認められるが、タレ流しの状態で供給された液状塗料が噴霧状となる旨の記載はない。なお、前記甲第3号証と対比すると、同号証の「また第1図においては、塗料は加圧されることなく、いわゆるタレ流しの状態で支管3から既設長尺管1内へ供給されているが、他の方法としては、液状塗料に圧力を加えて管内に設けられたノズルから塗料を噴霧状で供給し、これを支管2からの旋回ガス流に乗せて既設長尺管1の内面に吹付けて塗膜を形成させることもできる。」(3欄1行ないし7行)との記載において、「噴霧状」の記載は訂正されて削除され、前記甲第2号証の上記記載となったものと認められるが、いずれの甲号証においても、噴霧状で供給された塗料が噴霧状のまま旋回ガス流に乗って既設長尺管1の内面に付着するとの記載はないと認められる。さらに、本件明細書の「供給ガスはそれほど高圧である必要はなく、例えば、1kg/cm2程度の圧力であっても、極めて短時間に既設長尺管の全内面を塗装することができる。」(甲第2号証5頁右欄29行ないし32行)との記載によれば、タレ流しの状態で供給された液状塗料が噴霧状になって旋回ガス流に乗ると解することはできないし、また、圧力を加えて管内に設けられたノズルから供給された液状塗料が旋回ガス流に乗る形態が噴霧状に限定されると解することもできない。したがって、甲第2号証5頁右欄21行ないし28行及び同第3号証3欄1行ないし7行の各記載は、技術常識的に液状塗料の搬送が噴霧状であることを前提としたものであるとは解されず、本件発明の要旨の認定において、液状塗料の供給手段及び旋回ガス流に乗せられる液状塗料の形態を「噴霧状」に限定すべきであるとする原告らの主張は失当である。

以上のとおり、本件明細書の特許請求の範囲第1項記載のとおり本件発明の要旨を認定した審決に誤りはない。

(2)  取消事由2(特許法29条1項柱書きの該当性の主張についての判断の誤り)について

原告らは、本件発明の「旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹付け」との構成は、自然法則に反し不可能なものであると主張する。

乙第1号証(「渦学」株式会社山海堂 昭和56年7月15日初版発行)の「また速度ベクトルVの半径分速度(radial velocity)をVr、周分速度(tangenital velocity)をVθ、軸分速度(axial velocity)をVzとすると、速度ベクトルを表す式は次のようになる」との記載によれば、本件発明における「管内を旋回しつつ進行するガス流」である「旋回ガス流」が、半径分速度、周分速度、軸分速度の各速度成分を有しており、半径分速度、周分速度、軸分速度は、それぞれ、放射方向の速度成分、軸線回りの速度成分、軸線方向の速度成分と同義と解されるから、各速度成分に基づく、放射方向の力、軸線回りの力、軸線方向の力を有することは自然法則上明らかであると認められる。したがって、液状塗料を旋回ガス流における放射方向の力、軸線回りの力及び軸線方向の力により既設長尺管内面へ吹付けることが自然法則上可能なことは明らかである。

しかして、甲第7号証(世界大百科事典4 平凡社 1972年4月25日初版発行)によれば、「応力」とは、外力を受けてつりあい状態にある物体中の内力(239頁)、同第12号証(広辞苑第二版 岩波書店 昭和44年5月16日第二版第一刷発行)によれば、「応力」とは、物体が外力を受けたとき外力に応じて物体の内部に生じる抵抗力、同第13号証(日用字典 清水書院)によれば、「応力」とは、外力に抵抗する内部の力と、それぞれ、いうことができると認められる。

しかるところ、本件発明の「旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹付け」との構成における「応力」の用語を上記のような意味に解すると、旋回ガス流における放射方向、軸線回り及び軸線方向のそれぞれの「応力」によって液状塗料を既設長尺管内面へ吹付けることは不可能である。

しかしながら、本件明細書の特許請求の範囲第1項の記載及び発明の詳細な説明の項の旋回ガス流の作用についての記載並びに本件明細書において「応力」の用語が用いられている各箇所の記載を対比総合すれば、「応力」の用語は「外力」の意味に用いられていることは当業者であれば明確に理解できるものと認められる。

したがって、本件発明において、「旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹付け」との構成が実施不可能とはいえず、原告らの上記主張は採用できない。

(3)  取消事由3(進歩性についての判断の誤り)について

<1>  原告らは引用例1記載の発明と本件発明とは塗料の供給手段が異なるだけで実質的に異なるところはないと主張するので、検討する。

甲第4号証(特開昭52-4544号公報、引用例1)の特許請求の範囲の「粉体塗料の溶融温度以上に予熱した金属製管継手の内部に、粉体塗料を吹込んで上記管継手の内面を被覆するに当り、上記粉体塗料を旋回または拡散させながら吹込むことを特徴とする被覆方法。」(1頁左下欄5行ないし9行)との記載、発明の詳細な説明の項の「本発明における粉体塗料とは、…エポキシ樹脂、…の如き熱硬化性樹脂粉体をいう。」(1頁左下欄13行ないし17行)、「金属製管継手は、第1図(a)、(b)および(c)に示す如くエルボ、テイーズ、ソケット等各種形状のものが知られている。」(2頁左上欄13行ないし15行)、「管継手の内部に、粉体塗料と空気の混合物を旋回または拡散させながら供給する、すなわち粉体塗料を旋回または/拡散させて吹込むことにより、該粉体塗料が管継手の内表面に集中的に供給され」(2頁右上欄12行ないし15行)、「本発明であれば管継手の予熱温度を粉体塗料の溶融温度より50℃程度高くすればよいのであるが」(2頁左下欄19行ないし右下欄1行)、「上記バッフル9の表面には適宜な溝または突状が設けられてよい。特に第2図(c)に示すようなラセン状の突状を設けることにより、粉体塗料は拡散と旋回を同時に適用されて、より一層均一に管継手の内面を被覆できることになる。」(2頁右下欄20行ないし3頁左上欄5行)、「被覆時間:1秒」(3頁右上欄1行、同頁左下欄11行、同頁右下欄4行)との記載によれば、引用例1記載の発明は、粉体塗料の溶融温度より50℃程度高い温度に予熱された金属製管継手内に固形の粉体塗料を旋回又は拡散させながら吹き込み、内面に付着した際に予熱温度で粉体塗料を溶融させて(短時間)で塗装(塗膜を形成)する方法であるものと認められる。

これに対して、本件明細書の特許請求の範囲第1項の記載によれば、本件発明は、予熱することが不可能な「移動不可能に埋設あるいは固定された既設長尺管」を塗装対象として、「既設長尺管の内部にガスを供給して既設長尺管内を旋回しつつ進行するガス流を生ぜしめ、既設長尺管内に供給された液状塗料を、この旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹付け、既設長尺管内面をほぼ均一な塗膜厚さにて塗装する」方法であると認められる(なお、「応力」の用語を「外力」の意味に解すべきことについては前記(2)のとおりである。)。そして、本件明細書の発明の詳細な説明の項の「液状塗料は旋回ガス流が有する放射方向への応力により既設長尺管1内面に吹付けられると共に、付着した液状塗料は接線方向への応力及び軸線方向への応力により内面の始端側から終端側へ押し延ばされる。」(甲第2号証5頁左欄37行ないし41行)、「この液状塗料としては、内面に付着したとき、旋回ガス流により接線方向及び軸線方向へ押し延ばされるため、前記接線方向及び軸線方向への応力にある程度抵抗することができる程度の粘度を有していることが要求される。すなわち、液状塗料がある程度の粘度を有していない場合、内面に付着した液状塗料は上記接線方向及び軸線方向の応力により終端側へ押し流され、始端側と終端側とでは塗膜の厚さが不均一となるからである。」(同号証5頁右欄5行ないし11行)との記載から明らかなように、本件発明において、旋回ガス流が流通する既設長尺管の始端に液状塗料を供給すると、液状塗料は先ず旋回ガス流の放射方向の力により既設長尺管の始端側内面に付着させられ滞留し、そして、滞留した液状塗料は既設長尺管に対して継続的に供給される旋回ガス流の接線方向の力及び軸線方向の力により既設長尺管の始端側から終端側に向かって徐々に押し延ばされて既設長尺管の内面全体に均一な塗膜厚さで塗装されるものと認められる。

以上によれば、引用例1には液状塗料を旋回ガス流により押し延ばし塗装することは記載されておらず、本件発明の塗装方法と引用例1記載の塗装方法とは塗装原理を異にするものと認められる。

なお、原告らは、引用例1には、液状塗料の記載(甲第4号証1頁右下欄9行ないし11行)もあり、粉体塗料は旋回又は拡散されて管内壁面に吹き付けられる段階では既に溶融して液状化していることが記載(1頁左下欄19行)されていると主張する。

しかしながら、原告らの指摘する甲第4号証(引用例1)の「予熱した管を流動状態の粉体塗料の中に浸漬する、いわゆる流動浸漬塗装法が良く知られている。」(1頁右下欄9行ないし11行)との記載は、粉体塗料が流動状態であることを示すのみで塗料が液状であることを示しているとは解されず、また、同じく「被膜形成に関しては、粉体塗料を融着させるだけでよいものと」(同頁左下欄19行ないし右下欄1行)との記載は、管内壁面に吹き付けられる段階で既に溶融して液状化していることを示しているものとは解されない。したがって、原告らの上記主張は理由がない。

<2>  原告らの、押し延ばしながら塗装する点は、本件発明の構成とは無関係であるから、押し延ばしながら塗装する点について、各引用例に記載がないとの審決の認定は、本件発明の進歩性の判断の根拠となるものではないとの主張の理由のないことは前記<1>で説示したところから明らかである。

<3>  甲第5号証の1(米国特許第1146791号明細書、引用例2)の「1 ここに説明した液状塗装材料によるパイプ内面の処理方法であって、パイプを通って軸方向に前記液状材料の適当な噴霧の吹付けを行うことと、前記パイプを通って軸方向に同じ吹付けを行ってパイプ内面にあるそのような噴霧した液状材料を広がるようにしかつ余分な液状材料があれば除去することを包含する方法。」(2頁91行ないし98行、訳文7頁2行ないし8行)との記載によれば、引用例2には、パイプを通って軸方向に液状材料の適当な噴霧の吹付けを行ない、噴霧した液状材料を広がるようにする液状塗装材料によるパイプ内面の塗装方法が開示されているが、旋回ガス流を使用して管内面を押し延ばし塗装することは開示されていないと認められる。

次に、甲第6号証の1(米国特許第3139704号明細書、引用例3)の「分配ノズル14を管路Pの流入端に接続させる。それから加圧空気又は加圧ガスを、…供給して…混合物に渦巻き作用を生じさせ、その結果、管路へ流入する砂と空気又はガスの混合物は完全に攪拌され、空気又はガス中に砂を均等に分布させる。分配ノズル14へ送られる空気又はガスの駆動圧を調整することにより、管路へ流入する砂の速度を適切に調整して、その管路内の砂に乱流を起こさせその砂の沈澱を防ぎ、管路を清掃するのに適するようにする。」(5欄46行ないし57行、訳文8頁12行ないし9頁2行)、「弁110と12aが管路の直径や長さ次第で、短時間だけで開いたのち、…空気、又はガスがその部屋82'を通って管路へ流入する時その空気又はガスの渦巻き作用を生じさせ、そして空気と砂の実質的に均等な混合物ができ、これが管路へ導入されて、そのような混合物が管路を通って連続的に流れ、管路を清掃する。」(10欄21行ないし30行、訳文12頁5行ないし14行)、「メチルエチルケトンのような清掃及び洗浄用流体は、…管路へ導入される。…空気又はガスは、ボール(105)と流体を管路の他端へ動かす。…その流体は砂による噴射段階ののち、管路の内部を洗い流す。(6)このあと、例えばペイントやプラスチックのようなコーティング流体が洗浄流体の導入方法と同じ方法で管路内に導入され、その管路の内部を被覆する。」(9欄55行ないし70行、訳文10頁8行ないし11頁3行)との記載によれば、引用例3には、まず加圧空気又は加圧ガスにより空気又はガスと砂の混合物に渦巻き作用を生じさせて該混合物を完全に攪拌し、空気又はガス中に砂を均等に分布させて、管路へ流入させ、管路を清掃し(以下「第1段階の清掃方法」という。)、次に、メチルエチルケトンのような清掃及び洗浄用流体を管路へ導入し、空気又はガスによりボールとともに流体を管路の他端へ動かして管路の内部を洗い流す清掃方法、及び、清掃の後、例えばペイントやプラスチックのようなコーティング流体を洗浄流体の導入方法と同じ方法すなわち、空気又はガスによりボールとともに管路の他端へ動かして管路の内部を被覆する方法が開示されていると認められる。

以上によれば、引用例3記載の塗装方法は、旋回ガス流により液状塗料を押し延ばし塗装するものではなく、本件発明の塗装方法とは塗装原理を異にすると認められる。

次に、引用例3記載の第1段階の清掃方法と本件発明の塗装方法とを対比すると、前者は固体である砂で管内面に付着した錆等の汚れを除去する技術であるのに対し、後者は液体の塗料を付着させて管内面を被覆する技術であり、両者は、技術分野を異にするものと認められる。

原告らは、引用例3に記載されている清掃の技術は本件発明と同一の長尺管の内面を塗装するための前提としての管内清掃であり、引用例3には、管路を清掃した後に液状塗料で塗装することが記載されているのであって、引用例3に記載されている清掃の技術を、引用例2に記載される塗装の技術に適用することは当業者にとって容易に行ない得るものであると主張する。

しかしながら、前記のとおり、引用例3に記載された塗装方法は、ペイントやプラスチックのようなコーティング流体を空気又はガスによりボールとともに流体を管路の他端へ動かして管路の内部を被覆する方法であるから、引用例3において、管路を清掃した後に液状塗料で塗装することが記載されているからといって、第1段階の清掃方法における空気又はガスの渦巻き作用を利用して砂で管内面を清掃する技術を塗装方法として、引用例2に記載される塗装の技術に適用することは当業者にとって容易であるといえないことは明らかであるから、原告らの上記主張は理由がなく、審決の、引用例3に記載された清掃の技術を、引用例2に記載された塗装の技術に適用することが当業者にとって容易に行ない得るものとは認められないとの判断に誤りはない。

<4>  原告らは、さらに、本件発明の構成には均一塗装に結びつくものはなく、本件発明はかかる作用効果を奏するものではないと主張する。

しかしながら、前記<1>のとおり、本件発明は、旋回ガス流の作用により、液状塗料を押し延ばして既設長尺管の内面全体に均一な塗膜厚さで塗装する効果を奏するものと認められるのであるから、原告らの上記主張は採用できない。

なお、原告は、本件明細書の特許請求の範囲第1項記載の「応力」は他の物体に対して働きかける作用力ではないから、このような効果はないと主張するが、上記記載中の「応力」は「外力」と解すべきことは前記(2)のとおりであるから、原告の上記主張は理由がない。

<5>  以上のとおり、審決の、本件発明が引用例1、2あるいは引用例1、2、3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得るものとは認められないとの判断に誤りはない。

(4)  取消事由4(明細書記載の不備の主張についての判断の誤り)について

原告らは塗装されるパイプの上流側端部及び下流側端部はどのようにしてあるかの記載がないのは、明細書の記載が不備であると主張する。

しかしながら、本件発明において、旋回ガス流による押し延ばし塗装のためには、塗装されるべきパイプの始端部では旋回ガス流及び液状塗料をそれぞれ供給する装置が必要なことは明細書の記載から明らかであり、どのような装置を用いるかは当業者であれば理解でき、また、パイプの終端部ではガスが排出されることは本件発明の構成から自明であるから、明細書に記載される必要はなく、したがって、端部についての記載がないからといって、明細書の記載が不備であるということにはならないので、原告らの上記主張は採用できない。

なお、原告らは、審決は上記主張について判断を遺脱していると主張するが、審決の上記主張についての説示はその結論において相当であるから、原告の判断遺脱の主張は理由がない。

(5)  取消事由5(手続違背の主張)について

原告らは、審判手続において、請求人に答弁書に相当する被告の弁駁書副本と審決書とが同時に送達されたところ弁駁書提出の余地のない審決書と答弁書副本との同時送達は、特許法134条2項(平成5年法律第26号による改正前のもの)に違反した違法なものであるから、かかる違法な審理手続に基づく審決は違法であると主張する。

しかしながら、特許法134条2項には「審判長は、前項の答弁書を受理したときは、その副本を請求人に送達しなければならない。」と規定されているが、答弁書副本の送達に際して弁駁書提出の機会を与えなければならない旨の規定は同法にはない。

したがって、原告らの上記主張は失当である。

4  以上のとおり、原告らの取消事由の主張はいずれも理由がなく、審決の認定判断は正当であって、他に取り消すべき違法はない。

よって、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、93条1項本文を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙図面1

<省略>

別紙図面2

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別紙図面3

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別紙図面4

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